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東京高等裁判所 昭和60年(ネ)1851号 判決

控訴人 岩田嵩

右訴訟代理人弁護士 中根宏

市野澤邦夫

中川徹也

被控訴人 株式会社大和銀行

右代表者代表取締役 西村渥美

右訴訟代理人弁護士 加嶋昭男

降籏俊秀

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

理由

一  請求の原因について

1  請求の原因1の事実中、野崎交易が中古自動車の一般向け販売を主たる業務としていた会社であり、控訴人が野崎交易の代表取締役であることは、当事者間に争いがない。

2  同2の事実は、控訴人が野崎交易の連帯保証人として負担すべき債務の範囲及び限度額の点を除いて、当事者間に争いがない。そして、≪証拠≫によれば、控訴人が被控訴人との間の連帯保証契約によつて負担すべき債務は野崎交易が被控訴人との間で締結した銀行取引契約に基づく銀行取引約定書第一条所定の取引によつて負担する一切の債務についてであり、右連帯保証契約の締結に当たり控訴人から特に保証すべき債務の範囲及び限度額を制限するよう申し出たことはなく、その点についてこれを限定する特段の合意はなかつたことが認められる(この点に関する控訴人の主張については、後記二で判断する。)。

3  同3の事実は、≪証拠≫により、これを認めることができる。

4  同4の事実は、当事者間に争いがない。

5  同5の事実は、当事者間に争いがない。

6  ≪証拠≫によれば、野崎交易は、被控訴人に対し、銀行取引契約において、手形交換所の取引停止処分を受けたときは被控訴人に対する一切の債務について期限の利益を失い、また債務の不履行の場合には年一四パーセントの損害金を支払う旨を約していたこと及び野崎交易は、昭和五六年四月四日、手形交換所の取引停止処分を受けたことが認められる。

二  控訴人の主張について

1  まず、控訴人は、野崎交易の連帯保証人として負担する債務は野崎交易と被控訴人花小金井支店との取引から生じた債務額二〇一〇万円の残債務一一九〇万円だけであると主張し、≪証拠≫中にはこれにそう部分があるが、≪証拠≫に照らして信用することができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

もつとも、≪証拠≫によれば、(一)控訴人は、倒産した訴外日本オートサービス株式会社の第二会社である訴外日本車輛販売株式会社(以下「日本車輛」という。)の取締役営業部長であつたところ、昭和五四年五月三一日日本車輛が全額出資して野崎交易を設立した際、代表者となる予定の日本車輛の代表者野崎公一が脳内出血で倒れたため、関係者の要請を受けて代表取締役に就任したこと、(二)野崎交易と被控訴人との間の取引は昭和五四年一二月に被控訴人花小金井支店が野崎交易の営業所の近くに開設されたことから開始されるに至つたものであるが、その際、野崎交易は当初五〇〇〇万円の融資を申し入れたところ、被控訴人花小金井支店は融資額を二五〇〇万円としたこと、(三)野崎交易と被控訴人花小金井支店との銀行取引の開始に当たり、野崎交易の実質的なオーナーである野崎公一の資産が日本車輛の債権者の担保に提供されていてこれを被控訴人に対する債務の担保に提供することができなかつたため、控訴人は野崎交易の被控訴人に対する債務につき保証をするとともに自己所有の居宅及びその敷地に根抵当権を設定したがその極度額は二五〇〇万円とされたこと、(四)被控訴人は、原判決別紙手形目録記載の各手形((22)を除く。)を被控訴人渋谷支店において取得したことが認められる。しかしながら、(一)≪証拠≫によつても、控訴人は野崎交易の経営を任され、全面的にその責任を負つていたものと認められること、(二)≪証拠≫によれば、被控訴人花小金井支店が野崎交易の申し入れに対し融資額を二五〇〇万円としたのは、初めての取引であつたからであること、(三)根抵当権の極度額を二五〇〇万円としたのは物的担保について極度額を設定したにとどまり、これにより当然に別個の契約により負う人的な保証債務の限度額をも定める趣旨を含んでいたものとは到底解されないこと、(四)控訴人は、前記被控訴人との銀行取引契約及び連帯保証契約の締結に当たり、野崎交易の経営を担当する者として、被控訴人との取引の過程において野崎交易が約束手形を振り出しこれを被控訴人が花小金井支店以外の支店において取得する場合がありうることを当然予想することができたものと考えられることに照らすと、前記(一)ないし(四)のような事実があることをもつて、控訴人の保証債務が被控訴人花小金井支店との取引によつて生じた債務の残金だけに限定されるものとは解されず、またそのように解しなければ信義則に反することになるものということもできない。

なお、控訴人は、控訴人の保証債務は未だ履行期が到来していないとも主張するが、その理由のないことは、前記一の6認定の事実に照らし明らかである。

2  次に、控訴人は、日本自動車は被控訴人が出資して設立された会社であり、被控訴人と日本自動車とが右のような関係にある以上、本件の実質的な取引関係である被控訴人の日本自動車に対する融資金債権の回収は同社の財産の限度内で行うべきであり、同社以外の者から供与を受けた担保の実行は許されないと主張する。そして、前記一の3認定の事実並びに≪証拠≫によれば、被控訴人は、かねてから日本自動車の株式約一〇〇〇株位を保有し(ただし、被控訴人以外にも多数の銀行、保険会社等が株主となつており、被控訴人が同社の株式の大半を保有する関係にあるわけではない。)、同社との間で銀行取引を続けていたこと並びに被控訴人は、原判決別紙手形目録記載(1)ないし(12)の各約束手形を日本自動車に対する融資の担保として同社から裏書交付を受けていたことが認められる。

しかしながら、たとえ被控訴人が日本自動車の株主であり、また同社に対する融資の担保として約束手形の裏書交付を受けていたとしても、日本自動車が破産宣告を受けて倒産しその財産から融資金を回収することが困難な場合に、融資の担保として交付を受けていた約束手形の所持人として振出人に対し約束手形金の請求をしまたはその保証人に対し保証債務の履行を請求することを妨げられる理由はないから、控訴人の右主張は到底採用することができない。

3  また、控訴人は、原判決別紙手形目録記載(4)、(5)の各約束手形はいずれも野崎交易から日本自動車に対する原因関係を伴わない保証手形として振り出されたものであつて、被控訴人は右事情を知つてこれを取得したのであるから、野崎交易には被控訴人に対し右手形金を支払う義務がなく、したがつて、被控訴人の本訴請求中右手形金相当額の請求部分は理由がないと主張する。

≪証拠≫によれば、日本自動車と野崎交易との間において、昭和五五年六月一七日、野崎交易は日本自動車に対し資金援助の保証として毎月二〇〇〇万円を目途に約束手形(一種の融通手形)を振り出し交付し、日本自動車はその額面金額の金員を満期の前日までに野崎交易の指定する銀行口座に振り込むものとするとの合意をしていたこと、右合意に基づき野崎交易は日本自動車に対し前記目録記載(4)、(5)の各約束手形を振り出し、被控訴人は日本自動車から裏書を受けて右各約束手形を取得したことが認められる。しかしながら、被控訴人が右各約束手形を取得した際、これがいずれも原因関係のない保証手形(ないし融通手形)であつて野崎交易に支払義務がないことを知つていたものと認めるに足りる証拠はない。

したがつて、野崎交易に前記目録(4)、(5)の各約束手形の支払義務がないことを前提とする控訴人の前記主張は、理由がない。

三  そうすると、被控訴人の請求を認容した原判決は正当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却する

(裁判長裁判官 西山俊彦 裁判官 越山安久 武藤冬士己)

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